夜空は嘘をつかない

難しいことは後回し

さよなら おやすみ またあした

 

 

11月の終わり、定期配信で推しが「みんなにさよならを言おうと思って」と発言したことに私は静かに衝撃を受けていた。

もしゲスト出演することがあったら〜とかにーちゃんでいることには変わりないから〜とか口にしていたから、この人は「またね」を選ぶと至極勝手に思っていたのだ。

さよならを言わなければならない。大好きで、愛している、世界で1番優しいこの人に。その現実を改めて突きつけられた。もとより最後の挨拶はするつもりだし内容も考えていたけど、さよならを選ばなくてはならないのだ。

このタイミングで、推しとはじめましてをしてから4年を迎えた。初めて話したその後ひとりで10分も泣き続けた私が、あのときなぜ泣いたのか、あの感情の名前はわからなかった。多くの言葉を交わし、卒業を間近にして今直面しているこの感情の名前は「愛してる」なのだ。あのときがどうだったのか未だにわからないけれど、ようやく感情に名前がついた。

それと同時に交わす言葉、向けてくれる眼差しと表情、その一つひとつから「愛しい」という感情を受け取ってしまい、先日意を決して伝えてきた。「愛してくれてありがとう」という言葉に対して返してくれたのは「届いててよかった」だった。私はちゃんと、あなたの愛を受け取れていたんだね。

泣くことと後悔することについて自分なりに整理がついた今、自分の涙の大半は後悔ではなく愛しさ故のものであることに気がつく。これまでの日々と、今この瞬間と、行く先への愛しさ。悲しさよりも寂しさよりも愛しさが上回っているこの心を、私はなにより大切にしようと思う。

愛してくれて、ありがとう。愛されていることがわかったから、きっとこの先も歩んで行けるよ。

だから今、さよならと言って手を離せると思う。喪失の痛みに泣くことはあれど後悔ではないから。抱いた愛しさは、多分ずっと私の人生で輝き続けるから。

 

 

私のオタクテーマソングは『僕らまだアンダーグラウンド』であり、「僕だけでは貴方を満たせる事など無理かもしれない だけど 君だけではどうにもこうにもできないことがあるとするならば ああでもない こうでもないと 言葉だけが宙を舞って また今日も夜を超えてしまったんだ」という歌詞である。出会った当時の推しは今に比べると自己肯定感の低さが垣間見えることも多く、他のメンバーと違って俺は…と発言する様子もよく目の当たりにした。そんな彼に、あなたのことを好きな人がここにいるよ、と伝えたくなったのが接触に参加するようになった理由のひとつだ。私の名前の認識はしなくてよいから、ただただあなたを好きだと思っていることが伝わればいいなと思って。そうして言葉を重ねてきた。

先日不意に推しから「そらちゃんなんて100%俺のこと好きじゃん!」と言われた。嬉しかった。これまでの特典会で時折り「大好きだって伝わっているよ」と言ってくれていて、もちろんそれを信じて喜んできたのだけれど。ああこれは伝えた全てが伝わっているなと思った。にこにこと愛しそうに微笑むものだから、朝から泣きそうになってしまった。

ああでもないこうでもないと時には思い悩んで重ねてきた言葉が、彼の糧になっていたこと、自分のことを大好きな人がいると偽りなく伝わっていたこと、この上なく幸せだと思う。

彼に伝える言葉に悩んで夜を超えることは、もうないけれど。私が彼にこれまで伝えた言葉がその先の人生のどこかで少しでも輝いてくれたら嬉しいなと思っている。

そしたらおやすみ。あなたも私も、交わした言葉と過ごした時間が、心を休めるひとつになっているといいな。

 

 

昨年6月のあの日から、またあしたと約束を交わすことを意識して過ごしてきた。それは対オタクのみならず、推しに対してでもある。

私が彼に「またあした」と笑って手を振る日はもう来ない。

この期に及んで、自分がその約束にいかに支えられていたかがわかった。また会えるから、また話せるから、だから胸張れるようちゃんと生きていようと思えていた。

直接言葉を交わせる機会はもう来ない。あの愛しさを詰め込んだ表情を私に向けてくれることももうない。それでも私の生活は続いていくわけで、正直残酷だなと思う。でもその残酷に溺れてしまうより、これまで積み重ねた「またあした」によって続いてきた幸福を忘れない自分でいたい。彼に胸を張れる人間でいたいことはこの先もずっと変わらないので。

またあした。そうして重ねてきた日々を、かけてもらった魔法を、ずっと忘れない。

 

 

あなたが認めてくれた私の言葉を、私はこれからも大切に歩んでいこうと思います。認めてくれて、受け取ってくれてありがとう。

さよなら、おやすみ、またあした。